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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

日本の夏がここにあった!

           八月十日     -壱-

 

   大阪・南港から船に乗り込んで、二度目の早い朝を迎えた。


 この日、朝4:30に目を覚ました。


 目を覚ましてすぐ、昨日買っておいたキリンレモンを飲み干す。


 どういう訳か、唇が乾ききっている。



  船は相変わらず、大きな音をたてて揺れている。


 拾い船内を見渡すと、俺と同じように早い朝に戸惑いながらも、ゆっ

くりと立ち上がっている人を数人見かける。


 眠れなかったのか、一日中眠っていたからか・・・・・・生活のリズ

ムが少しずつ狂ってきているようだ。



  八月十日、AM6:30沖縄・那覇港に船は入港した。


 朝早く乗客たちは港に降ろされた。


 ここから船を乗り換えて石垣島に向かう。


 石垣島行きの船はPM4:30、まだかなりの時間がある。


    「政男!・・・これからどうすんの!」


    「俺達、沖縄でしばらく遊んでいくよ!東川は?」


    「俺は・・・・お供が居るから、すぐ石垣島へ行くよ!」


    「良いなー!・・・・そんじゃ!」


    「ああ!又石垣島で逢えるといいけど。」



  軽く挨拶を済ませると、その場を離れた。


 あまりにも朝が早いため喫茶店にも入れず、乗客たちのほとんどが荷

物を手にしたまま空を見つめていた。


 これがはじめての沖縄の第一歩とはあまりにも惨めではないか。



港と言うのは、どこもあまり替わり映えがしないもんだが、さすが

に海は違っている。


 二人の所に戻ると和子の指示で動き始めた。


 我々を乗せたタクシーは、和子の友達がいるという団地へと向かっ

た。


 ここで初めて車のキープライトを経験する事になる。



  団地にさしかかると、あの懐かしいラジオ体操の局が耳に入ってきた。


夏休みの団地の朝。


    「ちょっとここで待ってて!居るかどうか見てくるから。」


 と、言って和子はタクシーで友達のところへ向かった。


    「ひろみ!体操でもするか!」


    「うん!」


    「船はどうだった?」


    「飛行機が良いな!」


    「そうか!」



  ひろみと俺は子供達に混じって久しぶりのラジオ体操で目を覚

ます。


 知らない人が混じっていると、チラチラこちらを見ていた子供達が、

体操の曲が終わると集まり始めた。


    「ねー! ねー! どこから来たの?」


    「宇宙からさ!」


    「うそだー!」



  子供達に囲まれていると、和子が戻ってきた。


 和江ちゃんと言うちっちゃな女の子も一緒だった。


    「乗って!」


 和子の友達の家は団地の外れにあってなかなか見晴らしの良い所にあ

った。


 和子がドアをノックすると、友達が眠たそうな顔をして出てきた。


    「ゴメンね!朝早く。」


    「ううん。」


 ミス沖縄にしたいような美人で・・・・看護婦で夜勤だったらしく眠

たそう!


 今日は午後からまた出勤だと言う事で、和子は彼女と彼女の車をうま

く連れ出した。


 彼女の車は”スキッパー”で、大きな荷物と5人を乗せた(定員オー

バー)小さな車は転げるように坂を下った。


                                                           *



  車は小録町に入った。


 那覇埠頭に近い、マンション”泉○荘”と書かれた建物の近くで車は

止まった。


 和子のおばさんの家という話で、我々はここを拠点に動く事にした。


 ひろみはやっと元気になったようで、小さな赤ちゃんをあやしてい

る。


 和子は自分の家のようにのし歩き船旅の汗を流している。


 二人共船酔いから解放された嬉しさを身体中で表現している。



  午前中は、スキッパーで街中を走り回り、沖縄から石垣島まで

の乗船切符を手配し、午後はおばさんの車を借りて俺がハンドルを握った。


 真っ直ぐ走る分にはキープライトはあまり気にならないが、左折をす

るとついいつもの癖が出て車は左を走っている。


    「あれ?何であの車・・・・。」


    「あんたが間違ってんのよ!」


 それでも、一時間も走っていると完全に慣れてしまった。


 車を守礼の門へと走らせる。


    「あれ?今の人達・・・・仲間じゃないの?」


    「え?」


    「いたわよ!」


    「守礼の門にでも行って来たのかな?」


    「そうよ!」



  小高い丘に登るとその門はあった。


 何組かの観光客と数軒の土産物屋があるだけで、感動するほどのこと

もない。


 沖縄には、何軒かの親戚の家があるらしく、和子のあいさつ回りの運

転手として午後を過ごす羽目になってしまった。

        

         *



  PM3:00、泉○荘に戻り一時間ほど畳の部屋で腰を下ろ

す。


 窓からは海が見え、夏の風物詩風鈴が良い音色を響かせている。


    「昔の日本はこうだったなー!」


    「そう。」


    「良いなー!俺はこんな日本が好きなんだ!」


    「こんなの沖縄なら、どこでもあるわよ!」


 おばさんがスイカを持ってきた。


    「すんません!いただきま~~す!」


    「ゆっくりしてってよ!」


    「有難うございます!」


    「・・・・・・。」


    「うめ~~~~~!」



  スイカを食べて、ちょっとばかり昼寝を・・・・・。


 荷物をまとめて、おばさんにお礼を言って港に向かう。


 これからまた一夜の船旅。


 4:30、沖縄丸に乗船。


    「今日も・・・暑かったなー!」


 夏の沖縄で、名所旧跡を見て廻るでもなくいち沖縄の家族の中で過ご

したイメージが、ずいぶんと沖縄が違ったものとなったようだ。


 そこには、海洋博の跡もなく姫百合塔も海水浴場もない。


 爽やかな暑い沖縄の夏が、蝉の鳴く音のなかにジッとうずくまってい

る。


 ガラスコップの中に入った白いカルピスとクルクルと廻る大きな扇風

機。


 そんな中で、いく組もの家族が集まり語り合う。


 開け放たれた窓とそこから吹き込んでくる爽やかな風、そして青い畳

の肌触り、それら全てが沖縄の夏に相応しいもののような気がする。


 失われていく日本の夏が、小さな時に見た日本の夏の姿をここ沖縄に

見たような気がした。


 たった一日のそれだけの沖縄だったが、それ以上の沖縄があるとは思

えない。

                  


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